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滝野沢優子の 「勝手にセレクト!極私的テーマ別温泉」vol.04

滝野沢優子の 「勝手にセレクト!極私的テーマ別温泉」vol.04

by touring_m@pp1e

更新日:2020年6月22日

国内外問わず、さまざまな温泉をまわっている滝野沢優子さん(ツーリングマップル関西担当)による、「テーマ別おすすめ温泉」紹介。映画の舞台やモデルになった温泉から、特殊な立地や外観を持った温泉など、様々なテーマに応じた温泉が登場!温泉ソムリエの資格も持つ滝野沢さんのおススメを参考に、温泉ツーリングに出かけてみては!?

第4回 つげ義春の温泉

※当記事はツーリングマップル週刊メルマガにて2017年11月~2018年1月に配信した記事を再編集したものです。施設情報は変更されている可能性がありますので、訪問する際は事前にご確認ください。

 

最近、『ひなびた温泉パラダイス』(山と渓谷社)という本を購入しました。著者は「ひなびた温泉研究所」。フムフム、とパラパラページをめくってみると、やはり。著者は「つげ義春」の大ファンで「ひなびた温泉の元祖伝道師」とまで言い切っております。

ひなびた温泉研究所→公式サイト

 

つげ義春と温泉

さてみなさま、「つげ義春」、ご存じでしょうか?

1964年に創刊した漫画雑誌「ガロ」で活躍した漫画家の一人で、前衛的で観念的なストーリーと独特の作風で知られています。シュールレアリズムの旗手とも言われ、全共闘時代の大学生に圧倒的な人気を誇ったそうです。

その作品には温泉地も数多く登場し、それが例外なくひなびた湯治場だったり、安宿だったり、登場人物もひとクセもふたクセもある変人だとか訳ありとか貧しくて不幸せだとか、決して明るくほのぼのした内容ではありません。ストーリーも意味不明だったり難解だったりするし、絵もヘタウマの元祖という感じです。

特に代表作のひとつ「ねじ式」はつげワールドの真骨頂とも言えますが、ストーリーの意図もわからないし、主人公の少年は人間離れしていて、頭でっかちの宇宙人みたいでとってもヘンです。

「いったい、どこがいいの?」と思う人もいるでしょうが、一方でつげワールドにハマる人も少なくなく、一部の温泉マニアにとっては神様的存在なのです。

漫画の中では友人が運転するバイクの後ろに乗って旅に出るシーンも登場しているので、ツーリングも楽しんでいたようです。ノーヘルですが。

 

つげ義春作品の温泉地

つげ義春を語ると長くなるので、このへんでやめておきますが、ぜひ一度、作品を読んでみてください。温泉&つげ義春ならば、ズバリ「つげ義春の温泉」がオススメです。温泉が登場する漫画のほか、イラスト、古い写真、温泉エッセイなどが満載です。

さて、そんなつげ義春ワールドの舞台となっている温泉をいくつか紹介します。いずれも温泉の紹介を優先し、漫画のストーリーは省略します。

 

湯宿(ゆじゅく)温泉:群馬県

代表作のひとつ「ゲンセンカン主人」の舞台。

国道を通っているとわかりにくいですが、一歩入ると細い路地があり、普通の民家に混じって小さな旅館や共同湯が並んでいます。温泉街的な情緒はいまひとつながら、狭いエリアに共同湯が4つもあるのが素晴らしいです。夕方以降は外来客も入れます(夕方までは住民と宿泊者専用)。入浴料は1人100円以上の寸志を箱に入れるシステムです。

つげ義春は昭和43年に湯宿温泉を訪れていて、「ゲンセンカン」のモデルになったと言われる「大滝屋」も実在していますが、建て替えられているようだし、温泉街の雰囲気も漫画に描かれた暗い感じの情景とはちょっと違います。時代の隔たりもあるけれど、つげ義春の脳内イメージを表現したのだと思います。天狗のお面は那須の北温泉のイメージ、かな。

 

マップルトラベルガイド湯宿温泉

今神温泉(山形県)

また、ろう者の女将が浴室で念仏を唱える場面があります。これは西山温泉「老沢温泉旅館」(福島県)の神社のある浴室を私はイメージしましたが、幻の「今神温泉(山形県)」がモデルだそうです。

「今神温泉」は、山形県出羽三山の山奥にある湯治専門の温泉で、医師に見放された難病患者が、白装束を着て念仏を唱えながら入浴する独特の温泉。一般客は不可。現在は休業中。

Wikipedia→今神温泉

 

岩瀬湯本温泉/二岐(ふたまた)温泉(福島県)

どちらも、私が住んでいる福島県天栄村にある温泉です。天栄村は全国でも珍しい、分水嶺をまたいでいる村で、日本海側に位置する会津側の二岐山の懐にこの2つの温泉があります。

岩瀬湯本温泉は漫画の中には出てきませんが、茅葺民家が並ぶ中、赤ん坊を背負ったおかっぱの女性が立っているという、印象的なイラストで描かれています。つげ義春は、ここをかなり気に入ったようですが、私もけっこう好きな温泉なので、漫画作品になっていないのが残念です。現在は、2軒の旅館以外は茅葺ではなくなっているものの、当時の面影を色濃く残しています。同じ会津西街道の宿場町、「大内宿」が観光地化されて俗っぽくなった一方、こちらはごく普通の山里なままなのもいい感じです。

マップルトラベルガイド→岩瀬湯元温泉

二岐温泉は岩瀬湯本温泉から5~6km、二岐山の麓にある山間の小さな温泉地。「二岐渓谷」という漫画の舞台になっています。つげ義春本人と思われる旅人が、「一番貧しそうな」宿を選んで投宿しますが、モデルとなった「湯小屋旅館」は健在で、オンボロ宿ぶりは当時のまま、というより年月が経っている分、オンボロ具合が増しています。いつ崩れてもおかしくない状態です。ただし、オーナーが代わり、現在は有志(ファン)による不定期経営で、日帰り入浴のみのようです。渓流沿いに素晴らしい岩風呂があります!

一般的には、二岐温泉といえば「大丸あすなろ荘」が有名です。「日本秘湯を守る会」の会長さんの宿で、渓流沿いの露天風呂や足元湧出の自噴風呂などがあり、オンボロの「湯小屋旅館」とは対照的に瀟洒な建物で人気がありますが、「つげ義春」的世界を求めて行く人には向きません。

マップルトラベルガイド→二岐温泉

 

玉梨温泉/八町温泉(福島県)

奥会津・金山町にある山間の温泉地で「会津の釣り宿」の舞台です。つげ義春は昭和45年に友人と車で訪れています。漫画では「玉梨温泉」とだけ出てきますが、実際は只見川の支流・野尻川を挟んで八町温泉と玉梨温泉があり、ほぼ同じ温泉地です。

八町温泉側に旅館と混浴の共同湯、玉梨温泉側には男女別の小さな共同湯と、近年できた日帰り入浴施設「せせらぎ荘」があります。「せせらぎ荘」も源泉掛け流しで2種類の源泉を楽しめるのでオススメですが、珠玉は八町温泉の共同湯です。混浴(脱衣所は男女別)の大きめな浴槽で、川向いの玉梨温泉の源泉も引いています。うす茶にやや濁った湯はもちろん掛け流し。協力金1人300円以上を料金箱に入れるシステムで、24時間入浴できるのが素晴らしいです。壁には出資者の名札がびっしり架かっているのが、ここの特徴的な景観です。

マップルトラベルガイド→玉梨温泉

マップルトラベルガイド→八町温泉

また、漫画の中で洪水で氾濫した川の描写がありますが、実際、奥会津はたびたび豪雨被害に遭っていて、近年では2011年7月に起こった「新潟福島豪雨」が記憶に新しいです。つい最近も木賊温泉の岩風呂が流されました。ここは川っぷちなので、何度も被害に遭っていて、大岩が浴室内に流されていたこともありました。木賊温泉は、漫画では最後に登場しています。

奥会津には、ほかに早戸温泉、大塩温泉、滝沢温泉、湯倉温泉、西山温泉など、素朴な共同湯が残る温泉地が点在しています。どこもつげ義春ワールド全開なので、ぜひじっくりと訪ねてみてほしい地域です。

 

つげ義春は、全般的に東北の温泉地に好んで出かけたようで、「オンドル小屋」の舞台・蒸の湯温泉(秋田県)ほか、後生掛温泉(秋田県)、夏湯温泉(岩手県)、子安峡温泉(山形県)、肘折温泉(山形県)、瀬見温泉(山形県)などなど、かなり多くの温泉地を訪れています。

作品にも多大な影響を与えたのですが、温泉旅行がブームとなり、「みすぼらしい景観が少なくなった」ので、ある時期から温泉や旅から遠ざかり、1987年を最後に漫画制作をしていません。つげ作品はその後、映画化されたり、単行本、各誌で特集を組まれているものの、本人は存命ながら公の場にはほとんど出てくることはなく、隠遁生活をしているそうです。

 

(続く)

 

筆者:touring_m@pp1e

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