> 中四国ライダー 博田巌の「オフロードバイクライフ」vol.3
中四国ライダー 博田巌の「オフロードバイクライフ」vol.3
「パリダカ」と言えば、多くの人が聞いたことがあるであろう世界的ラリーです(※時代により名称、レース地は異なる)。「ツーリングマップル中国・四国」を担当する博田巌さんは、そんなパリダカへをはじめ、国内外のオフロードレースで優勝・入賞経験が多数ある日本人でも有数のオフロードライダーです。
ツーリングマップルでは中国・四国エリアの担当者になる以前、全国の林道調査を行ったこともあります。そんな博田さんに、旅に興味を持った少年時代から、バイクに乗り始めた時期、オフロード走行の魅力などなどを語っていただきます。
第3回 オフロードの深みにはまる
1991年の秋のこと。
「夜の林道を走るイベントがあるけど出てみん?」
と友人に誘われた『SSERグループN』という大会。その当時、僕はまだロードレースの方に興味があったし、オフロードレースのことはよく知らなかったのだけど、
「なんだか面白そうだな」
と、軽い気持ちでエントリーした。
『SSER(四国スーパーエンデューロラリー)』は夏に2日間行われるラリーだった。人気の『グループN』は、その中でも入門編といった位置付け。
競技は、土曜日の午後に受付車検をして、薄暗くなった夕方にスタートする。コースに設置されたマークを頼りに、主に舗装路の移動区間と、『SS』と呼ばれる林道区間を走りつなぎ、またスタート地点に戻ってくるというスタイル。
公道を使うため、ルールでほとんど改造は出来ない。僕はタイヤ交換と補助灯を追加しただけのDT125Rで出場した。
ここで経験したのは、漆黒の闇夜を自分のバイクのライトだけで走り抜ける緊張感と、この先どこを走るのか分からない、未知へのワクワク感だった。
ただでさえ感じるその緊張とワクワクの中に、タイムアタックという競技性、それにパンク等のトラブルを想定し、ライディングを邪魔しない範囲で必要最低限の装備を吟味・準備しなければならない事前の戦略性という面白さが加わる。
さらに、レースを通じ、各地から集まったオフロードフリークたちとの出会いもあるわけで、到底普段のツーリングでは味わえない、オープンフィールドで行われるオフロードイベントの魅力に、僕はすっかりはまってしまった。
初めてのラリー『SSERグループN』を走り終えた後、興奮そのままに、次の年の、毎年GWに行われている『ツールドブルーアイランド』にエントリーしてしまった。
ツールドブルーアイランド、通称『TBI』は、ダカールラリー等、世界のラリーでほぼ共通して使用される、『コマ図』と呼ばれるルートブックを頼りに、自らナビゲーションしつつ、豊富な林道群を繋ぎながら、6日間かけて四国を1周するというものだ。
『コマ図』には、「距離」・「交差点での進行方向」・「ダート入口」などの目標物や、その他「道の特徴」などなどが描かれている。それらの限られた目印を頼りに進むのだが、地図でも写真でもないコマ図で走っていると
「次の図の先にはどんな風景が広がっているのだろう?」
というゲーム感覚に似た面白さが味わえる。
実際のコマ図① 左に積算距離(大文字)と区間距離(小文字)。真ん中に案内図。右側に補足情報が表示される
実際のコマ図②基本的にはほぼ世界共通の仕様だが、パリダカやモンゴルだとここに更にGPSポイントや、進む方向のCAP情報が追加される。
記号などの凡例
レース中はこのように設置。巻き取りながら進めていく。
また、移動中の宿泊はキャンプになるので、「旅」の要素もたっぷりだ。そんなわけで、ラリーという競技の面白さにますます見事に感化された。
また、そこに集うオフロードバイク好きな連中の元気さにも、圧倒され影響を受けた。
「来年オーストラリアンサファリに出場するよ」
「バハに行ってくる」
など、雑誌でしか見られない、自分とは違う世界だと思っていた海外ツーリングや海外レースなどを体験した、もしくはこれから体験しようという生の声と熱は、当時19歳だった僕にとって、かなり刺激的なもので、
「いつか自分も海外に出掛けて行きたい!」
と思わずにはいられなかった。
その後は、DT125RからCRM250、XR600へと乗り換えながら、『SSER』や『TBI』、広島や九州で開催される西日本の大会に次々と参加。腕を磨きつつ、「いつか海外に」という思いを膨らましていた。
1994年の12月、日本人で唯一の、モトクロス世界チャンピオンである渡辺明氏が主宰する「ベストテクスクール」にも参加した。自分達と同じバイクに乗って、なぜあんなにスムーズで安定してしかも速く走れるのか、とても不思議だった。
「いつか、あんな風に走ることが出来ればなあ」
という好奇心はずっと続いていて、実は今でも定期的に開催される「ベストテクスクール」には参加しているのだけど。
最近になって、ようやく少し理解が進んだかな、と思うようになってきたものの、未だに毎回楽しく新鮮な気持ちでバイクに乗れるのは、このスクールのおかげだと思う。
さて、いよいよ1995年、僕はモンゴルで開催される「第1回ラリーレイドモンゴル」に出場することになる。
(続く)
※当記事はツーリングマップル週刊メルマガにて2017年1月~2月に配信した記事を再編集したものです。