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内田一成の「キャンプツーリング徒然」第3話

内田一成の「キャンプツーリング徒然」第3話

by touring_m@pp1e

更新日:2019年10月21日

ツーリングマップル中部北陸版担当の内田一成さんによる、キャンプツーリングコラム。アウトドアやオートバイとの付き合いが長く、バイク誌・登山誌などでも活躍してきた内田さんの、キャンプツーリングにまつわるさまざまなエピソードをお届けします。今ではあり得ないような無茶な企画バナシに始まり、自然との対峙の仕方、焚き火や料理、ギアや各種ノウハウなど、多岐にわたるお話は、どれも興味深いものばかり。読めばきっと、外に出たくなるはず。

第3話 砂漠のキャンプで感じるもの

広い世界としての砂漠

1980年代半ばは、よく砂漠へ行った。メキシコのバハカリフォルニア半島、カリフォルニアのモハベ砂漠、アリゾナのグラミス、そして中国シルクロードのタクラマカン砂漠。

まだ20代半ばの頃だったが、その頃はとにかく広い世界に憧れ、できるだけ自分がちっぽけに感じられるような場所に身を置いて、「人間なんて砂粒一つとたいして変わらない存在なんだ」と開き直るような気持ちになれるのが快感だった。

ある時、バハ1000のプレラン(試走)に出る前に、日本人エントラントから

「砂漠でミスコースして一人になったら、とにかく不安でたまらないよ。それで夜になんかなったら発狂しそうになるよ。だから、ミスコースには十分注意して」

なんてアドバイスを受けたが、どうしてそんなに一人になることを怖がるのか解せなかった。

そして、いざプレランに出発すると、案の定ミスコースして、一人で夜を迎える羽目になった。方向の分からない夜に焦って走っても、貴重なガソリンを無駄にするだけだ。それで、早々にビバーク体制に入った。

昼間は40度を軽く超えていた気温が、日が傾いてくるとどんどん下がってくる。傍らに停めたヤマハのエンデューロバイクTT600のエンジンが急速に冷えて、キンキンと金属の引き締まる音を立てる。

砂漠と言ってもバハの場合は灌木やカクタスが生えているので、薪には困らない。完全に日が沈んでしまうまでに、薪に良さそうな灌木を集めて焚き火を起こす。焚き火の火の前で、アルミ箔のエマージェンシーブランケットに包まって腰を下ろす頃には、完全に日が暮れて、満天の星空が広がってきた。

砂漠で過ごす夜

ぼくにアドバイスをくれた一回り以上歳の離れたライダーは、「砂漠で一人になったら、不安でたまらない」なんて言っていたが、不安などまるで感じなかった。

ただ夜が深まるにつれて、気温はどんどん下がり、ハンドルのクラッシュバーに巻きつけておいた多機能時計の温度計をみると、0度を下回っている。さすがに昼間走行用のメッシュのジャージしか着ていないので、エマージェンシーブランケットだけでは、焚き火の炎の当たらない背中が凍りつくように寒い。

それで、時々反転しながら体を温めていたが、見上げたすさまじいばかりの星空に、結局そんな寒さも苦にならなかった。

そのうち、砂に潜れば温かいのではないかと、エマージェンシーブランケットを巻きつけたまま、海水浴のときに砂に埋まるような形で横になって自分の体を埋めてみると、これがすこぶる快適だった。

砂に埋まって、ゆったりした気持ちで空を見上げたら、さらに星空がきれいだった。月のない夜だったけれど、星の光だけで空が明るく感じられ、林立する灌木やカクタスが、賑やかに踊る人の影のように見えた。

ぼくに「砂漠で一人になったら、不安でたまらない」と言った人は、きっとこの夜空を見たことがないのだろう。日本では絶対に見られないこんなに素晴らしい世界が広がっているのに、なんともったいないことだろう。

オープンフィールドを走るエンデューロレースで、周囲の自然を堪能するくらいの余裕もなくて、ただ走るだけで精一杯では楽しくもないだろうに。彼は、何度もバハを走っていたが、なかなか完走できなかった。

このバハの時以来、砂漠は夜が一番いいと感じていた。

昔の砂漠を渡ったキャラバンは、昼間の暑さを避けるため、夜の砂漠を渡っていった。夜に進むのは、北極星という目印があって、方向を誤りにくいというもう一つの合理的な理由もあるのだが、じつは、いちばんの理由は、自分が星空に溶け込んでしまうような、この幻想的な景色に取り憑かれていたからではないかと思う。

地球の鼓動

砂漠でキャンプをすると、昼から夜への移り変わりの瞬間と、夜から昼への移り変わりの瞬間に、一瞬風が止まる。まったく無風で、音も完全に消える。でも、その瞬間にじっと耳を澄ますと、微かな脈動を感じることができる。

地球物理学では、地球表面と電離層の間で、極々超長波の振動波が常に伝わっているのが知られている。これはシューマン共振とかシューマン波と呼ばれるもので、周波数は7.8Hzから203Hzの間を行ったり来たりしている。それは可聴域の音波ではないので、耳に聞こえはしないのだけれど、砂漠の無風無音の瞬間に感じられる脈動はこれなのではないかと思う。

アリゾナの砂漠でも、タクラマカン砂漠でも、夜明けの瞬間に砂丘のピークに登って、じっと東の空を見つめていると、同じ脈動を感じることができる。これは、地球の鼓動と言っていいのかもしれない。地球の鼓動を感じ、それと自分の心臓の鼓動がシンクロした瞬間の心地良さは、とても文章では表現できない。

なかなか砂漠という環境に身を置くことはできないけれど、機会があったら、ぜひ砂漠でキャンプをして、凄絶ともいえる夜空と地球の鼓動を感じる瞬間を体験してほしい。間違いなく、人生観が変わるから…。

 

(続く)

※当記事はツーリングマップル週刊メルマガにて2015年1月~3月に配信した記事を再編集したものです。

内田一成の「キャンプツーリング徒然」第1話

内田一成の「キャンプツーリング徒然」第2話

 

 

筆者:touring_m@pp1e

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